稲刈り
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稲刈り 暑い暑いと言っていたのは、いつのことやら、天高く秋風吹き黄金色の稲穂のウエーブ。 彼岸花咲く五穀の海にありがたや、ありがたや。 暑さ寒さは彼岸まで、心おきなく足の向くまま気の向くまま、肩で風切る豊饒の季節よ。 村の鎮守の神様の今日はめでたい秋祭り。どんどんひゃらら、ぴーひゃらら。 お化け屋敷に蛇娘「ほらほらほらほらほらぁ、今今今今今ぁ、見て見て見て、ハナちゃんの あの姿・・・」 じいちゃん、ばあちゃんも見に来た運動会も終わった。神様仏様稲尾様。西鉄ライオンズも 優勝した。 「温泉にいくよりも幸せな休息じゃった」。 さあ、いよいよ稲刈りじゃ。還暦過ぎたばあちゃんもじいちゃんも一家総出で朝も早ようから カマ持って稲を刈る。 段違いに並び、踏ん張り、腰を折り、草取り、害虫捕り、農薬まきと手塩にかけた稲穂を根元 からザクザクザクッ。 「一粒でも多く収穫するぞ」と刈り進む。 今日もどれだけ刈ったのだろう。ときおり立ち上がり、ふーっと腰を伸ばし、額の汗を拭う向こう にいつ終わるとも知れない黄金の平野が広がる。西日が顔を照らし夕暮れの風は冷え冷え。 学校も農家の生徒は午後から帰宅して、稲刈りの手伝いをする。稲刈りはもちろん、食事、 お茶の運搬、稲束結び、子守等々。 ネコの手も借りたいのである。 こんなに働いても米の生産量は他県に比べ伸び悩んでいた。そこで村ごとの集団統一栽培 に取り組み昭和四十年、四十一年と二年連続で佐賀県は米作り日本一になるのであった。 こうしてご飯が食べられるのもお百姓さんのおかげです。一粒たりとも残しません。 ところが その後「減反」に次ぐ減反政策で今日に至っている。 田園風景を考える時、作る側の風景と食べる側の風景は戦後、ずっと隔たってきたのだろうか。 ふと立ち上がり汗を拭う向こうに見えた風景と、ふと農道に自転車を止め見やる農村の 風景はやはり違うものなのだろうか。 なにを焼くのか知らないけれど、茜の空に上る三筋の煙。ここは大和の豊饒の大地。 |