黄金の道


 
 
  黄金の道
  
 もう十二月・師走か。年々、時間の経つのが早くなるようで、参る。こんなはずじゃなかった。親はあっても子は育ち、親はなくても年はとる。
冬休み、クリスマス、正月、お年玉。早く来い来いお正月。子供のころ、雲の流れのようにゆっくりと時間は過ぎていた。
一日も一年もながーく、自分の時間をいくら費やしても時計の針はのろく、早く鳥になりたいと背伸びしても少年のままであった。
 いつ鳥になって、大人になったのだい。
 あの角を曲がったとき?あの橋を越えたとき?あの家の窓に君を見たとき?
 雲は流れ、すみれ色のたそがれゆきて、朝の光の中で小鳥はばたいた。
やっと町を出て一人で歩いた。道は町や村をつないでどこまでも続いているけど、はたと立ち止まる。
近くて遠い道の彼方の陽炎に戦く。もう少し上手にはばたける日まで憧れの道として取っておこう。
道は時計の文字盤。その上で一歩一歩、日記を刻むサイクリスト。

  僕の前に道はない   
  僕の後ろに道は出来る

 自ら切り開き進むべき決意を光太郎はこううたった。我が青春に悔いなし。
瓦礫や鉄クズが転がり貼り付くでこぼこ道。夏にはほこりが舞い。雨が降れば水たまりができ、
オート三輪が泥しぶきをかけ、少年たちは歩き走って釘やガラスを踏んづけた。
その道が年に一度お色直しをした。
大晦日が近づくと砂を積んだ何台もの車力と大勢の人夫が町に現れ
クリストのプロジェクトのように市内の道路と言う道路をケチらずに贅沢に分厚く砂で覆っていくのであった。
一年の終わりと始まりの風景。「浄めの塩」と言うか、ただの砂が黄金に見え、
心はわくわく町はジパング。正月への秒読みを開始する時でもあった。 
敷き詰められたばかりの黄金の砂の絨毯(じゅうたん)をそっと下駄で歩いてみる。
ザクザクと下駄の歯が埋もれる。その深さに何故か喜ぶ。幸せが向こうからやって来そうな一年に一度の黄金ロード。
ボクの前には道が一杯。除夜の鐘を聞きながら少年は今年も遊びの夢を見る。