2003/7/6
模型キットの潜水艦


 
 
  模型キットの潜水艦

 中学生が見せびらかすでもなく、全長五十センチもある軍艦を川に浮かべていた。 
板切れや木片による手作りの軍艦で細かいところまで実によくできている。煙突からは
線香の煙まで上げ、円谷映画に出してもおかしくないくらい。今なら町の優良職人とし
て表彰ものだ。
そうなるとじっとしておれないのが、指くわえて眺めていた小学生。鋸や小刀で
悪戦苦闘してはみたものの、好奇心と根気だけでは、どうにもならず、板切れに木片
積み重ねただけの子供騙しの船しか作れず、ならばと小遣いかき集めて、街の模型屋
へいく。もちろんまだプラモデルはない。木製モデルである。いろいろ目移りするが、
小松崎茂さんの描いた箱の絵がかっこよかった戦艦「陸奥」を選んだ。
喜びいさんで図面通りに部品をセメダインでくっつけていったのであるが、できあがりは
ガタガタ。一つ一つの部品がプラモデルのようにきちんとできていないのである。削ったり、
磨いたりしなければならなかたのである。それよりも「金返せ」と言いたくなったのは、
箱の絵との落差の大きいこと。
そこで登場したのが潜水艦。文具店や駄菓子屋に売ってあり、安い簡単、水に潜ると
きたら子供にはたまらない。ノーチラス号、「海底二万マイル」だ。ジュール・ヴェルヌの
「海底二万マイル」はディズニーの映画になった。学校からも、ぞろぞろ歩いて街の
映画館へ見にいったからもう止まらない。模型飛行機で空も飛んだとなるとお次は、
H・Gウエルズのタイムマシンや海底へと夢膨らむのであった。何せご近所と学校
しか知らない子供たちである。
三〇センチぐらいの舟形の両側面にブリキの舵を四枚取り付けるだけの簡単のもの。
 動力のゴムを巻きノーチラス号に見立てて、校庭の小川に浮かべた。すると音もなく
水中に姿を消した。「潜った。ホントに潜た?」。そして、しばらくして、すーっと浮かび
上がってくるのだった。当たり前のことだが、何度やっても潜るのである。
 時には金魚草にからまったり、川底に抜かってしまうこともあり、竹竿で懸命に探しても
見付からないこともあった。