夕立雨宿り


 
 
 
  夕立ち雨宿り

 焼け付くような夏の日の午後。群青の空の深みより遠雷の兆し、ゴッロロロロロー。
 暗雲垂れ込み、にわかに空が暗くなり、一陣の風が吹き、稲妻走り、雷鳴轟く。
パラパラ、バラバラ、ザッダーザー・・。 白亜の世界が暗黒の空間に一変する。光の届かない世界に
直線の雨が降る。
屋根をたたき、大地を刺す。そしてすべてが冷やされる。その心地よさ、しのぎ安さ。天の恵みかクーラーか。
急激な気温の低下に子供は腹掛け、くわばらくわばら。蚊帳で仕切った空間の何と穏やかなこと。
腹掛け一枚、蚊帳一枚の聖域。
戦きはしゃぐ小さき者たちの声の切れ切れに虫かごのキリギリス鳴き、雨音は製材所の電動鋸の続き。
濡れても構わぬ夏の雨。なのに道往く人は雨宿り。やがて止む雨を見やり、大人も子供も軒下でふと
息をつき我を取り戻す。
夕立の約束事。
 虫も鳥も雨をよけて、しばしの休息。雨音も雷鳴も心に静寂を産み雨はすべてに平等に降り注ぐ。
だから傘を持ってる人も傘をささずにあえて雨宿りに興じる。会話があるわけじゃなく、見知らぬ同士
がただたたずむ。
重い雲の一部分が明るく透け、幾重にも重なった黒雲が上昇しはがれていき、山の稜線がくっきりと
現れる。
あわてて雨の中へ走り出すこともないのだ。ほんのつかの間、真夏のうたた寝みたいなもの。
夢に見た羅生門の話しを誰にしようか。
 再び暑い日差しが、何もかも強引にリセットしようとする。やれやれ、よろこんでいいのやら悪いのやら、
一斉に赤信号を渡り始めるようなものだ。
ニイニイゼミが鳴き、濡れた林ではアブラゼミが騒ぎだし、地上の水分が水蒸気となって充満する。
もうろうと現実に引き戻され、夕立のことなど完全に消滅する。
そして、晴れた空には虹。引き返しはできないが、今夏も似たような空を見る。そうやって何十年生きてきたのか。